デパートの食堂

子どもの頃の率直な感動というものは、歳を重ねる度に一つずつどこかに置き忘れてしまうようになってくる。大人になると、率直な感動を得ようとする能動的な姿勢を継続していかないと、感度が鈍い人間になってしまう。しかし、能動的な姿勢を継続することに腐心し過ぎると、これまた手段と目的が摩り替わってしまったりする。

私は日本テレビの「どっちの料理ショー」という番組が好きで、時間があるとよく観ているが、先日、「タンメン vs 味噌煮込みうどん」という対決をしていた。タンメンが結果的に勝利したのだが、「おいしい応援団」というコーナーで、タンメンの方は、「大宝」というラーメン屋が紹介されていた。会社から歩いて10分ほどのところにあるのだが、ある日、ランチで行ってみた。感心はしたが感動はできなかった。

今は少なくなっているそうであるが、昔はデパートの食堂に入るということが、母親と買い物に行く時の最大の楽しみであった。池袋東武百貨店がオープンしたばかりの頃に、その食堂で食べたハンバーグの味は、今でも忘れられない。私だってその後の生涯で、もっと美味しいであろうハンバーグくらい何度も食べているはずなのであるが、それほど感動は出来ないのである。昔は家族で外食をするという行為が、ある種イベント的な輝かしさがあったことは否めない。ただ、思うに私などは、そうしたイベントにワクワクした最後の世代かもしれない。

('98/11/26)