やる気のないパン屋

私の家は一時引越しをして、十数年間別のところに居たのだが、新居を構えることとなり、また今の場所に戻ってきたのであるが、そのすぐそばに「ナトリ」という、かつて美味しかったパン屋がある。「美味しかった」という過去形の意味は幾つかある。

一般的に言えることは、子どもの頃に食べた味というものは、例え当時と同じ味のものを味わったとしても、時間を経た今では「これが当時は美味しかったんだ。」とちょっとがっかりする場合もある。無論、このパン屋についても、そのような意味で過去形で表現したところもあるのだが、ご夫婦で店を切り盛りしているこのパン屋は、そのご夫婦も60歳を超え、ご子息も継承しないようで、味が明らかに落ちているのである。明らかに自分たちが生活できる範囲でやれば良い、という考え方が見え見えなのである。品数と一品当りの数量も少なく、かつての姿を知る私としては寂しい限りである。

このパン屋は「南龍館通り商店街」という場所に位置するが、昭和20年代後半から30年代に栄えたこの商店街も、今や毎年たたんでしまう店が多く、商店街という名称についても、今となっては羊頭狗肉といった感がある。このパン屋もあと何年店を営んでいけるのであろうか。高齢化現象は下町の実態であり、大きな問題であるのだ。

('98/11/22)